「源氏物語 賢木」(紫式部)

読みどころは源氏の喪失の連続

「源氏物語 賢木」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

朧月夜は尚侍となり、
帝の寵愛を受けるが、
源氏との逢瀬も続けていた。
実家に里帰りしていた朧月夜は、
ある雷雨の明け方、
源氏との密会の現場を
父・右大臣に見つかってしまう。
姉の皇太后は激怒し、
源氏失脚を画策し始める…。

源氏が運命の大きな転換点を迎える
源氏物語第十帖「賢木」。
最大の山場はもちろん
朧月夜との密会が露見する件です。
しかし読みどころは、
それにつながる数々の場面であり、
源氏がいろいろな人物との関係を
喪失する局面なのです。

created by Rinker
小学館
¥2,948 (2024/05/17 18:17:32時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

源氏の喪失①六条御息所との別離
前帖「葵」で源氏の正妻・葵の上
早世の原因は
御息所の生き霊だったため、
二人の関係は疎遠となります。
御息所は源氏との愛に
終止符を打つ決意をし、
娘の斎宮とともに伊勢へと下ります。
当然の成り行きと
いえないことはないのですが、
この教養の深い年上の愛人もまた
源氏にとっては
必要な存在だったのです。

源氏の喪失②父・桐壺院崩御
それは単に実父が亡くなったという
ことだけでなく、政権の移り変わりを
意味しているのです。
実権を握ったのは
朱雀帝の外祖父・右大臣であり、
左大臣や源氏にとっては
政敵にあたるのです。

源氏の喪失③舅・左大臣の政界引退
そして頼みの綱の左大臣も
政界引退を決意します。
それによって源氏は政治的権力を
大きく失うことになったのです。
右大臣側の圧迫は強まる一方で、
源氏や頭中将などは
昇進が見送られるなど、政界での
存在感を急速に失っていくのです。

源氏の喪失④最愛の人・藤壺の出家
源氏から激しく求愛され続けていた
継母・藤壺は悩みます。
不安定な政情下で
息子・東宮の後見役としての源氏の力を
失うわけにもいかず、
かといって源氏の愛を
受け入れるわけにもいかず、
究極の決断としての出家です。

気軽に会えるようになったとはいえ、
出家した藤壺は
愛情の対象とはなり得ず、
源氏にしてみれば
精神的支柱を失ったも同然です。

created by Rinker
¥13,750 (2024/05/17 16:25:29時点 Amazon調べ-詳細)
今日のオススメ!

源氏が人的資源の喪失を重ね、
かつての勢力を次第に削がれていった、
そのような中での密会の露見なのです。
それまでとは異なり、
うやむやにするだけの力は
源氏にはもはや残されていません。
だからこそ、その後の筋書きが
手に汗握る展開となり得るのです。
この緻密な状況設定が
源氏物語の面白さであり、
紫式部の迸る才能の表れであるのです。

created by Rinker
¥440 (2024/05/17 09:10:07時点 Amazon調べ-詳細)

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.3.28)

Roman SolarによるPixabayからの画像

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな本はいかがですか】

created by Rinker
¥544 (2024/05/17 18:17:34時点 Amazon調べ-詳細)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA